高血圧|とのぎ内科クリニック

高血圧

高血圧

高血圧とは

1) 自覚症状ないのに治療しないといけないの??

糖尿病、高脂血症、高血圧などの生活習慣病は、自覚症状がないまま経過し、ある日突然脳梗塞、心筋梗塞などの心血管病変が発症し、四肢麻痺により今までのように仕事ができなくなったり、最悪命を落としてしまいます。

上図は高血圧学会が発表している、血圧と心血管病変発症のリスク相関図ですが、40-64歳の壮年層において、至適血圧の方と比較し、Ⅰ度高血圧では約3倍、Ⅱ度高血圧で約6倍、Ⅲ度高血圧になるとなんと9倍にまで上昇してしまいます。(反対に75歳以上の高血圧患者様では高血圧の心血管イベントのリスクはかなり限局的になります)

またこの関連は全脳卒中死亡,脳梗塞死亡,脳出血死亡でも同様の傾向を認めます。

全心血管病死亡の 50%,脳卒中死亡の 52%,冠動脈疾患死亡の59%が,至適血圧を超える血圧高値に起因する死亡と評価されています。

また上図は2007年と少し前のデータですが、高血圧に由来する死亡数は年間約10万人にものぼり、これは喫煙に次ぐ第二位のリスク要因になるのです。

血圧が正常高値血圧であっても、心血管病のリスクが約1.5倍~2倍に高まることは要注意です。

心血管病変以外には腎障害、認知症のリスクが上昇してしまいます。
沖縄におけるコホー ト研究では,収縮期血圧10mmHg上昇あたり,将来 の末期腎障害リスクが30%前後上昇することが明ら かになっています。
また,久山町研究では,高血圧,特に中年期の高血圧が,高年齢期の血管性認知症発症 リスクを上昇させることが明らかになっています。
中 年期の高血圧は将来の日常生活動作(ADL)低下リス クを上昇させることも報告されています。

また高血圧に糖尿病を合併することで、心血管疾患のリスクは6-7倍にまで跳ね上がります

以上の疫学的調査を踏まえて、高血圧学会では下図のような治療指針を定めています。

血圧は120/80mmHg以下を妥当としているのがよくわかります。

血圧、収縮期血圧を10mmHg低下させることにより、心血管病リスクは、脳卒中で約40%、心疾患で約20%低下することがわかっております。

当院の使命

【俺は血圧が高くても健康だ!】
その気持ちはよくわかりますが、上述の如く平均寿命のみならず、健康寿命の延長に至適血圧が必要なことはデータより不可欠です。
我々の使命としては、『医学的データを活用し皆様の将来的な健康をお守りすること』であることと考えております。

高血圧の検査の種類

心電図 簡単な検査ですが、心臓肥大、心筋梗塞の既往、不整脈の有無など極めて有用な情報が得ることができます。
胸部レントゲン 心臓の大きさ、大動脈の広がりを診て血管へのダメージを推測します。また肺疾患の有無の確認します。
心エコー 心臓のポンプ機能や弁膜症や心肥大などの構造異常を調べます。
高血圧に伴う心機能変化として最初に認められるの が,左室拡張能の低下
血液・尿検査 [腎臓機能]尿素窒素(BUN), クレアチニン(Cr)、尿蛋白、尿潜血など
  [二次性高血圧の否定を行います。
(最も頻度の高い原発性アルドステロン症の鑑別)血症レニン、アルドステロン
  [血圧の安定には]ナトリウムやカリウム、クロールの正常化が必要です
  心負担の程度をBNPで確認します
  総コレステロール(TC)、良玉コレステロール、悪玉コレステロール、中性脂肪(TG)
  [糖尿病の有無]血糖、ヘモグロビンA1c(HbA1c)、尿糖
  [甲状腺疾患でも血圧は変動します]甲状腺刺激ホルモン(TSH)、甲状腺ホルモン(FT4、FT3)、TSHレセプター抗体(TRAb)を確認します
ABI 動脈硬化の程度を確認します

高血圧の初診時または治療開始後定期的に上記の検査を、高血圧ガイドラインにのっとり行います。上記検査は多岐に渡りますが、治療方針と血圧または生活習慣病の重複による臓器障害の評価のためには必要不可欠なものです。
また、降圧薬選択の妥当性や、お薬は肝臓、腎臓代謝のことが多いために、また電解質異常をきたす等の副作用の出現の有無、治療のマンネリ化防止のために上記検査は最低6か月または一年おきに行う必要があります。

3高血圧の治療

  • ①減塩
  • ②栄養素の摂取(野菜、食物繊維、DASH食)
  • ③適正体重の維持
  • ④運動
  • ⑤節酒
  • ⑥禁煙

高血圧の治療を始める際に、緊急性がなければ、
①減塩②栄養素の摂取(野菜、食物繊維、DASH食)③適正体重の維持④運動 ⑤節酒 ⑥禁煙
等の生活習慣の改善を図っていただきます。
特に喫煙は

再掲の図の如く、健康寿命、平均寿命の延長には禁煙は必須なので、出来ることならば禁煙外来を利用して禁煙して頂きます。

禁煙外来

しかし、患者様に努力して頂いて、生活習慣を改善しても高血圧の改善は中々奏功しないのが事実で、Ⅰ度の高血圧の患者様で、1薬剤で低用量の場合、20 ~30%の患者様でのみしかお薬を離脱できません。

そこで内服加療が必要になってきます。

Ca拮抗薬 ACE阻害薬 ARB サイアザイド利尿剤 ループ利尿薬
作用機序 Caの流入を抑えることで血管を弛緩させる。それにより全身血管の抵抗性が減弱し、降圧作用を発揮。 腎臓におけるRAA系を阻害することによる全身の水分バランスの是正並びに全身血管の抵抗性の改善を行う。 A-Ⅱ受容体に結合することにより、血管収縮、体液貯留、交感神経亢進作用を抑制させる。 遠位尿細管でのNa再吸収を抑制する。 腎臓ヘンレループを阻害する。
特徴 腎臓などの臓器障害合併例や、高齢者でも使用できる万能降圧剤。 心負荷改善のために心不全に有効。有意な心肥大改善効果。抗動脈硬化作用、尿たんぱく減少、腎保護作用、脳循環調節改善作用などが報告されている。
→糖尿病、心不全、脳循環不全などで第一優先。利尿剤との併用で副作用である低K血症を防ぐことができる。高齢者で誤嚥性肺炎を防ぐことができる。
副作用がなく、ACE阻害薬と同等以上の降圧作用をもつ。またACE阻害薬で示されていた動脈硬化、糖代謝、心肥大、心不全、腎不全などにたいする予防効果も証明されている。 低K血症をきたすことがあるので、柑橘類、経口K製剤を併用する。脳卒中、心不全の予防に効果がある。 利尿作用は非常に強いが、降圧効果は弱く、作用時間も短い。サイアザイドと違い、腎機能を悪化させずに腎障害とくにクレアチニン2mg/dl以上の高血圧、うっ血性心不全に使用。
副作用 頭痛、火照り、浮腫など。種類によっては心不全、不整脈が増悪する。 空咳が出現することがある。稀に血管神経性浮腫による呼吸困難。腎動脈狭窄病変が基礎疾患にあると、腎機能低下の可能性がある。DPP-4製剤との併用で血管神経性浮腫が増悪する可能性がある。 ACE阻害薬との併用により腎障害、高K血症をきたすことがある。 低K血症、高尿酸血症、脱水をきたすことがある。クレアチニン2mg/dlでは無効。痛風には禁忌。 低Ca血症

以上をまとめると、薬剤の大規模臨床試験の成績を基としたエビデンスを基礎とし、患者さんの状況に合わせて、積極的適応、不適応となる病態を吟味し、禁忌や慎重適応を考慮した上で薬剤を最終的に決定します。

 

また3-6カ月ごとに定期的に治療を再評価・修正を行います。
内科外来ではよく漫然と薬剤のみが処方され続けているところが多いようです
診療の惰性は、日本では認知度がまだ低い概念ですが、疾患のマンネリ化に繋がってしまうために必ず避けなければなりません。

4高血圧治療のエビデンス一覧

COPE試験

Ca拮抗薬は脳卒中の予防に特に有効とされている。日本は脳卒中発症率が高く、第一選択の一つとされている。しかし高血圧ガイドラインではCa拮抗薬単剤で降圧目標に達成できない場合の併用薬はどれが有効かは定かにされていない。

そこでARB、βブロッカー、サイアザイド利尿剤のうち、降圧効果ならびに脳卒中を含めた心血管イベント(心筋梗塞、心不全、腎疾患を含む)予防効果を比較した。

結果;併用薬としては、サイアザイド利尿薬が最も心血管イベントを抑制した。βブロッカーは利尿剤よりも有意に劣っていた。

ASCOT-BPLA試験

ASCOT-BPLA試験ではβ遮断薬+利尿薬に比べてCa拮抗薬+ACE阻害薬で心血管イベントを約10%抑制し、ACCOMPLISH試験ではACE阻害薬+利尿薬に比べてACE阻害薬+Ca拮抗薬で心血管イベントを約20%抑制していた。(絶対的リスク2.2%、相対的リスク19%)これらのことは、Ca拮抗薬とRA系抑制薬の併用による有用性を示唆するものである。
一見すると、併用薬として利尿剤が不利のように思えますが、参加者は心不全、腎障害も含まれており、利尿剤の有効性が発揮しにくいため、そのまま鵜呑みにするのは危なそうです。

SPRINT試験

非糖尿病患者において、降圧目標を収縮期血圧<120mmHgまたは収縮期血圧<140 mmHgと比較しどちらが心血管イベントが少ないかを比較した試験です。
その結果収縮期血圧<120mmHgのグループは有意に心不全発症のリスクを抑えました。
しかし、電解質異常、腎障害などの副作用の発症も多くなってしまったために、厳格かつ慎重なかかりつけ医による介入が必要がありそうです。

75歳以上の後期高齢者において降圧目標は議論の分かれるところでしたが、同試験のサブ解析では、収縮期血圧<120mmHgの方が生命予後の改善を認めたことから非常に画期的な試験です。

5 高血圧Q&A

下の血圧が高いのですが。。。。

下の血圧、つまり拡張期血圧が85mmHg(家庭血圧)
以上の場合も高血圧と診断されます。拡張期血圧が高い場合の原因としては末梢血管の抵抗性が上昇しているまたは大血管の弾力性がまだ保たれていることが多いことがわかっています。
その様な病態の方は、運動不足、肥満、喫煙者、大酒家、質の悪い睡眠に特に多くなっています。
それらに当てはまる方は、まずは上述の生活習慣の改善が再演の対処法となります。

特に運動は血管の柔軟性を高めるために特に重要です!

また家庭血圧では、所謂上の血圧(収縮期血圧)が低く、拡張期血圧が高く測定されてしまう傾向があるために、かかりつけの医師に聴診法でも確認してもらいましょう。

自宅で血圧計はどのタイプがいいですか?またどのように測定すればいいですか?

手首型は残念ながら不正確ですので、上腕式で測定するようにしましょう
2,800円程度で購入可能です。
測定方法はオムロン株式会社のサイトをご参照ください。

病院で測定すると高いですが、自宅では正常値となります。どちらを信頼したらいいですか?

病院で血圧を測定すると、どうしても緊張してしまうために血圧は普段よりも高くなってしまいます。そのことを白衣性高血圧といいます。白衣性高血圧は、高血圧患者さんの15-30%でみられ、高齢者でさらにその頻度は増加します。
その頻度が少ないのでれば、特に問題ありません。

しかし診察時で毎回高血圧となるのでれば、長期的に心血管リスクが上昇することや、腎障害にもつながるために、投薬治療の変更を考慮します。

自宅で同じタイミングで測定するのですが、ばらつきます。どうのように判断すればよいでしょうか?

体調の変動で血圧はどうしても変動してしまいます。変動がある場合は一週間の平均値を自宅血圧として判断します。

生活習慣を頑張って改善すれば、降圧薬はやめられますか?

患者様に努力して頂いて、生活習慣を改善しても高血圧の改善は中々奏功しないのが事実で、Ⅰ度の高血圧の患者様で、1薬剤で低用量の場合、20 ~30%の患者様でのみしかお薬を離脱できません。しかし辞めてしまうと確実に再上昇してしまうために基本的には飲み続けなければなりません。

降圧薬は癖になりませんか?

依存性はないために、癖になることはありません。

降圧薬を飲んでいますが、急に血圧が上がりました。緊急に受診する必要がありますか?

高血圧の患者さんは往々にして血圧が180mmHgにまで上昇することがあります。
特に頭痛、四肢のしびれ、呂律困難等がなければリラックスして自宅で様子を見て頂ければ問題ありません。しかしそれが連日続くのであれば、主治医と相談ください。